マンスリー2006

2020年10月10日

目が覚めて
ひとりで息を吐く

見た事のない鳥がいて
こちらをみている

冷えた手で
あなたの声を忘れまいと耳を塞ぐ
1月

似たような犬が
似たような服を着て散歩している

みんな嬉しそうだ

星が出る前に
もう一度窓を開けたくなる
2月

おめでとうおめでとうおめでとう
新しい夜が生まれる

おやすみおやすみおやすみ
もう大丈夫

ささやかな願いの裏で
昨日咲いた花が音もなく落ちる
3月

いいね
いいよ
目配せして飛ぶ

その先はわからない
誰にも

燃えながら
何かが見えた気がする
4月

どうしてだろう
まぶしくなるんだ

目はずっと閉じたままなのに

いないはずの
虫の声だけが聞こえる
5月

いつからだろう
虫の羽音が耳元でするようになったのは

雨はこんなにも頼りなげに降っている

原色が
丸めた背中を突き刺す
6月

乾いた花が
次から次へと落ちてくる
ように

声を殺して立ちすくむ午後

遮られた
空の色だけを夢想する
7月

さあご覧
何もないだろう
これが現実/未来だ

太陽と空と水
これは僕らのものじゃない
わかるね

初めて
卵を産んだ虫が死のうとしている
8月

落ちる
落ちる
落ちる

花が
太陽が
定められていたはずの現実が

朽ち果てた
花びらの下で蟻が蠢いている
9月

ねっとりとやってくるそれは
まるであの人の吐息のよう

切れた電球みたい
熱かっただけでもう役には立たない

動かなくなった蜘蛛を
金木犀の茂みに向かって吹き飛ばす
10月

ひまわりなんかいらない
菊なんかいらない
これっぽっちのコスモスじゃ母の棺が埋められない

月だけが
ずっと見ている

いとしいものが
穏やかに狂っていく
11月

光っているのは星
落ちてくるのは人工衛星
宇宙船の破片
破片

破片が降り注ぐ夜
断片の意味を調べようと手にした辞書は滑り落ち

明るい駅で
知らない列車に乗る夢を見る
12月

創作