短歌の研究
悪漢の腹にワンパン食らわせてずらかる体で映画館出る
居酒屋で丸椅子跨いでいる奴らサツかヤクザか借金取りか
後ろには予想もしない黒幕がいるのだこんな揚げ浸しにも
映画には人生すべて詰まってる君のあくびが止まらぬわけも
大股で歩く路地裏始発までエンドロールが宙に舞うまで
簡単でいいですからと伝えても二重包装されるお土産
帰省する電車の窓は大きくて小さく書かれたUVカット
腐るほど時間はあった過去形で認識されて然るべき今
結婚はしないのなんて言う人がいなくなる日が本当に来て
甲子園テレビ中継叫ぶ声夏豆を剥く母の手止まる
災害はなかったことにするようにしたいわけではないのだろうが
震度七想定すれば予算書の稟議通らぬことは明白
住み慣れた家を離れている人を被災者と呼び四年半経つ
ゼリー寄せみたいにゆるく凝らせた声にならない善意と悪意
象のいる動物園に降る雨がふるさとのないわたしにも降る
足りないとわかっていても自分では埋められないとわかってもいて
地下鉄の駅が地上にあることが普通になって二十九年目
付き合いで寄ったお店になんとなく居座っている終電間際
定刻に着いた電車が定刻に出ていくことに慣れたみたいだ
東北の生まれなんです東京は好きや嫌いじゃ語れないです
泣きながら撫でる額に柔らかく鳴き声返す猫のいる夜
人間はいつか死にます人間じゃないものだっていつか死にます
抜け殻になってお前の体温を感じるだけの冬の一日
眠ってるお前のかたちまあるくて四角い箱に入れてみたくて
ノーサンキュー伸びたお前の前足がつぶやくようにわたしを叩く
はじっこに寄せたつもりのがらくたが愛のリズムに崩れて落ちる
被膜剥ぐように互いの迂闊さを確かめあって嘲りあって
不確かな愛だ誰にも気取られず癒えないままに消えてく愛だ
部屋の中落ちた髪の毛拾うときあなたの長い不在を思う
星のない空を見上げて窓を閉め灯りを消してそれだけの夜
真夜中のメールあなたのアドレスが低く震えて緑に光る
三日月が綺麗だ君はどうしてる待ちくたびれて眠るところよ
無印のルームライトがほの白く照らすあなたのいない寝室
面倒な事は言わないお互いに大人ですもの大人ですもの
猛烈に暴れて泣いて罵って倒れて喚く夢を見て眠る
ラッパ飲みしていた頃もあったよねビール焼酎日本酒ワイン
離婚した友達が言う男にはもうこりごりよこれからは株
ルビーでもアメジストでもよかったの形に残るものならそれで
恋愛はもういらないと言いながら青みピンクの口紅をとる
朗々と歌えよ女高らかにLでもRでもないら行
闇を見る人よ詩を書け水平に伸ばした腕のその指の今
指の先隠されていた睦言のお行儀のよく咲き揃う朝
よくできましたもう少しがんばりましょうわたしわたくしわたくしわたし
わたくしを許すものかという声が阿頼耶識から聞こえてもいて
んでまんつわだきゃなもかもまいねのす限界だびょんさわらねでけへ
(短歌研究詠草の記録)
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