短歌の研究

2020年10月10日

悪漢の腹にワンパン食らわせてずらかる体で映画館出る
居酒屋で丸椅子跨いでいる奴らサツかヤクザか借金取りか
後ろには予想もしない黒幕がいるのだこんな揚げ浸しにも
映画には人生すべて詰まってる君のあくびが止まらぬわけも
大股で歩く路地裏始発までエンドロールが宙に舞うまで

簡単でいいですからと伝えても二重包装されるお土産
帰省する電車の窓は大きくて小さく書かれたUVカット
腐るほど時間はあった過去形で認識されて然るべき今
結婚はしないのなんて言う人がいなくなる日が本当に来て
甲子園テレビ中継叫ぶ声夏豆を剥く母の手止まる

災害はなかったことにするようにしたいわけではないのだろうが
震度七想定すれば予算書の稟議通らぬことは明白
住み慣れた家を離れている人を被災者と呼び四年半経つ
ゼリー寄せみたいにゆるく凝らせた声にならない善意と悪意
象のいる動物園に降る雨がふるさとのないわたしにも降る

足りないとわかっていても自分では埋められないとわかってもいて
地下鉄の駅が地上にあることが普通になって二十九年目
付き合いで寄ったお店になんとなく居座っている終電間際
定刻に着いた電車が定刻に出ていくことに慣れたみたいだ
東北の生まれなんです東京は好きや嫌いじゃ語れないです

泣きながら撫でる額に柔らかく鳴き声返す猫のいる夜
人間はいつか死にます人間じゃないものだっていつか死にます
抜け殻になってお前の体温を感じるだけの冬の一日
眠ってるお前のかたちまあるくて四角い箱に入れてみたくて
ノーサンキュー伸びたお前の前足がつぶやくようにわたしを叩く

はじっこに寄せたつもりのがらくたが愛のリズムに崩れて落ちる
被膜剥ぐように互いの迂闊さを確かめあって嘲りあって
不確かな愛だ誰にも気取られず癒えないままに消えてく愛だ
部屋の中落ちた髪の毛拾うときあなたの長い不在を思う
星のない空を見上げて窓を閉め灯りを消してそれだけの夜

真夜中のメールあなたのアドレスが低く震えて緑に光る
三日月が綺麗だ君はどうしてる待ちくたびれて眠るところよ
無印のルームライトがほの白く照らすあなたのいない寝室
面倒な事は言わないお互いに大人ですもの大人ですもの
猛烈に暴れて泣いて罵って倒れて喚く夢を見て眠る

ラッパ飲みしていた頃もあったよねビール焼酎日本酒ワイン
離婚した友達が言う男にはもうこりごりよこれからは株
ルビーでもアメジストでもよかったの形に残るものならそれで
恋愛はもういらないと言いながら青みピンクの口紅をとる
朗々と歌えよ女高らかにLでもRでもないら行

闇を見る人よ詩を書け水平に伸ばした腕のその指の今
指の先隠されていた睦言のお行儀のよく咲き揃う朝
よくできましたもう少しがんばりましょうわたしわたくしわたくしわたし
わたくしを許すものかという声が阿頼耶識から聞こえてもいて
んでまんつわだきゃなもかもまいねのす限界だびょんさわらねでけへ

(短歌研究詠草の記録)

創作